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自動思考(DMN)とフラッシュバック


自動思考(DMN)とフラッシュバック

2017/06/16 加筆修正


・記憶は通常、トリガーとなるようなものを認識した時に連想されたり、必要に応じて想起したりする。

 だが、全く関係ない時にもまるででしゃばるかのように思い出したり、リラックスしたい時(特に入眠時が多いか)に嫌なことを思い出したりすることも在る。


 酷い時には目の前の取り組むべき仕事に意識を向けられないほどに記憶にさいなまれることも在る。フラッシュバック、PTSD、トラウマと呼ばれる現象だ。





自動思考とは


今回の自動思考は、認知行動療法で言われるものとは別物である。

あれはコアビリーフ(人生観や世界観という名の思い込み)を元にしているトリガー→思考、要するに物の見方や考え方のクセという分かりやすいものだが、今回は「何も考えてない/何も見てない状態で全く脈絡もなく勝手に思い出す」物を扱う。

今回言うところの自動思考とは、DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)と呼ばれている「脳のアイドリング状態」とよく称されるものだ。

重要なポイントだが、何も考えなくても、何もしてなくても、「脳は動いている」。
しかも脳全体の消費エネルギーの内の60%~80%を占める。


記憶の反芻やリハーサル、一説によれば人間は無意識下で情報と情報を(かなり雑に)くっつけたりしているそうだ。それらは大抵はハズレだが、時々「アイデア」となる。


そして厄介なことにDMNは意識的に脳を使っていない時に活発になる。これは「リラックスしている時に限って嫌なことを思い出す」、あるいは「単純作業や慣れきった作業をしている時に思い出す」理由になる。
どちらも特別頭を使う必要は無く、言い方を変えれば「脳が暇だから」、DMNのスイッチが入る。

リラックスしている時や単純作業している時というのは、「アイデアがよくひらめくタイミング」とされている場面とも全く同じことに注目したい。これはフラッシュバックもアイデアも両方DMN由来のものだから、と考えられないだろうか。

逆説的になるが、「嫌なことを思い出すのはあなたがリラックスしている証拠」かも知れない。だからといってフラッシュバックを避けるために一切リラックスしない毎日を人生レベルで過ごすのは無理だろう。

だとすると、問題は記憶に対して心身が過剰な反応をしてしまうという一点に絞れる。

無害、有益、または取るに足らない記憶が想起/再生される場合、普段は気にも留めない。その記憶に何らかの問題がある場合、特に思い出したくもないようなことを頻繁に思い出してしまう際、初めて問題視される。


問題なのは「思い出すこと」ではない。そこまでは産まれた時から繰り返されてきたことだ。
記憶の内容、かつての経験や記憶(年月が経っているほどかなり脚色されている可能性がある。鮮明に思い出せる事柄が正確な過去の記憶とは限らない)に精神・肉体が反応してしまうことが問題となる。

再現される思考


脳は現実と空想/想起の区別がついていないという話もある。特にスポーツの分野においてイメージトレーニングが一定の効果があると認められていることからもこれについては真実だと見ていいだろう。 

思い出しただけなのに脳は目の前で実際に起きたのと同様のストレス反応を示すと言う話もある。つまり、嫌なことを思い出すたびにそれと同じ目にあっているとも言える。当人からしてみれば最悪だ。

例えばモラハラ加害者の暴言などが忘れられなくて苦しい、と言った声がある。ふとした拍子に、あるいは日常的に頭のなかでリピートされているのなら、思い出すたびに目の前で言われているのと大差ない。


同じだけ苦しむ。ショックを受ける。フラッシュバックに慣れたという話は聞いたことがない。そして他人に苦しみは伝わらない。「一度やられただけでしょ?」と。生憎、一度やられただけで、一生苦しむことは在り得る。
人間の思考回数は一日に数万回だと言われている。情報元によって2万だったり6万だったりはっきりしない。似たような説として「人間は一日の半分は頭の中にいる」みたいなのも読んだことがある。

まぁとにかくその内の何割かがこういった毒のような記憶の再現なら、精神に良い訳はないだろう。





他人が原因でも苦しめられる


なぜショックなことばかり脳に焼き付くのか?
野生では危険察知ができなければ命に関わる。危険だと感じたことは記憶するようになっている。人間の記憶は感情とセットで脳に格納される。ネガティブな記憶は生命に関わる可能性があるので記憶の優先順位は高い。

また、目的論的に言えば【警戒していたいから嫌なことを思い出して体を警戒させる】と解釈することも出来る。
これは「最悪な目に合わないために」常に警戒していようとする、ある意味前向きな姿勢なのかもしれない。日常が犠牲になるんだが。

正直な所危険は現実にあり、大体の人間はその可能性すら忘れて暮らしている。災害、事件、そういった何か不幸な目にあってそれらの可能性が【ある】と知ってしまったら、それを警戒するようになる。

別に自然災害に限らず、人間関係においてもそうだ。何かしらの「ひどい目」に一度合えば、次からは警戒する。


PTSDは心的外傷後ストレス障害と訳される事が多いが、言葉通り「外傷」による問題と言える。少なくともスタートは。天災か、それこそ「人」災かはそれぞれだろう。




記憶の生存競争

・ところで、あなたの頭の中には少なくとも二種類の「あなた」がいることに気がついているだろうか?


 フラッシュバックに苦しんでいるのは、当然あなただろう。


 では、フラッシュバックを「思い出す」のは誰か? 
「あなた」は思い出したくもないはずなのに、なぜ思い出すのか?


 この問の答え足り得る説がある。ダニエル・デネットという哲学者が提唱した「意識の評判モデル」だ。

「生き残る記憶」

意識の「評判」(fame)モデル
この著作では、意識の多元的草稿モデル(パンデモニアム・モデル)に対して、意識の評判モデルという新たなイメージが追加されている。

人間の意識は、多数のニューロンが自己主張する錯綜した関係の中から生み出されるものであるが、この混乱した状況の中から、特定の内容が人間の意識の範囲内に現れ出るプロセスを、デネットは社会の中で特定の人物や事件が評判(fame)となって人々の目に付くようになるプロセスとなぞらえているのである。

実際の社会において、そのように評判となった事柄は、他の事件の評判によって速やかに忘れられていくが、それと同様に意識の中に現れ出た内容も、他の多数のニューロンが自己主張する喧騒の中で、つねに忘却への淵に瀕している。

以上のように、特定の内容が意識の注意を引こうとしてせめぎ合う状況を、デネットは「注意の引ったくり」(attention-grabbing)と名づけている。

ウィキペディアより
 ダニエル・デネットが言う「注意のひったくり」、こういった活動により脳内で生き残る記憶は、新しい記憶と、強く印象に残っている記憶の二種類になる(技術と言った手続き記憶の類も使わなければ劣化していくので同様だと思われる)。


 フラッシュバック・トラウマ・PTSDとはその印象の強さにより脳内情報の生存競争に「生き残った」記憶・情報だと考えることが出来る。
この脳内のうるさくて迷惑なバトルロイヤルが今回「自動思考」と呼んでいる者の正体だろう。

 こういった生存競争が脳内で行われているとするならば、まず間違いなく長生きするほどに頭の中が酷いことになるだろう。嫌な記憶のほうが強い印象を受けることは証明されている。つまりフラッシュバックになりそうな「ネタ」程、記憶・意識の生存競争に於いて有利に立つ。


 まぁそんなのは御免だ。となると、自身で管理・制御する必要が出てくる。他の「ニュース」で上書きするのがまず思い浮かぶ。

実際にいる。まるで何かから「逃げるように」、「夢中になれる新しいもの」を必死に探し続ける人が。

 上書き狙いの場合には分かりやすい懸念が在る。記憶のインパクト=ダニエル・デネットの言う「評判」の「インフレ」だ。

より環境に適した(記憶の優先順位のアルゴリズムに則した)ものが生き残る自然淘汰が頭の中で起きているとしたら、上書きするには更に強い印象を持つ経験か、新しい経験を補充し続けることをしなくてはならない。前のものよりもっと強く、常に新鮮なものを。

そのうち「話題性」がインフレを起こすだろう。




「感情だけ」のフラッシュバック

フラッシュバックは、幼児期に経験した外傷体験を言語的に認識する能力を持たないまま記憶し、それでもなお忘れられない場合にも起こる。

この、外傷体験を当初から取り込むことに失敗する現象のことを解離という。この記憶はまともに意識に上らないため、時間に抵抗し変造加工が困難である。

また、それゆえにフラッシュバック性の記憶はその鮮明さにも拘らず言語化が困難でもある。さらに時間とともに霞がかからずむしろ原記憶よりも鮮明さは増す傾向が強い。
ウィキペディアより

・記述にある通り、特に幼少期の言語化出来ない=手がとどかない所にある記憶というのが苦痛の元である場合が多い。これは子供にかぎらず、大人でも同じことだろう。

大抵の「心の苦痛」は記憶そのものではなく、その時の感情、印象、気持ちだからだ。フラッシュバックとはこれらの「未消化の記憶」が加工もされずに彷徨っているとも言える。処理ができない案件、つまり脳としては問題なので「評判」を集め続けることになるかもしれない。

 注目したいのは突然の憤怒・恐怖などの感情や痛みなどの感覚的なもののみのフラッシュバックが存在するという点だ。知覚出来るのが自分が無意識の想起に対して反応した「結果(つまり感情)」のみである場合、原因となった出来事がなんであったのかすら思い出せない。



繰り返す記憶の理由

・「評判」という概念と照らし合わせればフラッシュバックは脳内で「いま話題の・注目のニュース」であり続けている。どれだけ古くても。大きな事件だと大した進展もないくせにワイドショーは何度もその事件を流すだろう。挙句の果てにネタが無いから事件のおさらいばかりやる。世間が注目する限りは何度でも。脳内がそんな状態なのかもしれない。

 「事件のおさらいばかりやる」という点、フラッシュバックに似てはいないだろうか。思考による「仕分け」は既に終わっていて、あなたの中では実は決着のついた話なのかもしれないのに、いつまでも思い出させて蒸し返す。「評判」だから。つまり「リアクションが取れるから」。思い出すことに意味などなく、単純に記憶の優先順位における脳内アルゴリズムで優位に立っているだけなのではないだろうか。つまり、何の意味もなく「ただ単に思い出している」。

 感覚・感情のみのフラッシュバックのケースは、恐らくこの「おさらい」自体は無意識化で行われ(本人が知覚していない)、想起による反応(当時の感情・感覚)のみが本人が自覚できる状態だろう。

 要するに、全てがではないが、もうその記憶の「相手をする必要が無い」のではないか。つまり本能的な忌避行為(危険を避けるため、嫌な目にあったものは警戒する本能)のために必要だから記憶の反芻をしているのではなく、それらは既にアーカイブ化が済んでいて(対策は身についていて)、「片付いた仕事」なのではないか。


実は既に克服している可能性はないだろうか、ということ。
対処可能なことと「なんとも思わないこと」は違う。

「対処出来るけど思い出すだけで辛い」ような記憶である可能性。







◆ 自分で記憶を「仕分け」する

 記憶はそれぞれ自己主張しあい、生き残ろうとする。「自分」とは別の、自動的なシステムなのだと思ったほうがいいのかもしれない。

能動的な自我、つまりは「あなた」が相手をすることは=「評判」ポイントが上がることになり、いつまでも「注目の情報」で在り続ける。恐らく、反応が過剰であれば尚更に。肯定でも否定でも、反応することは「餌を与える」ことになる。注目を得ようと悪質なことを行うストローク飢餓の人間と同じだ。

 そうだとしたら話は早い。強い印象だったから、未だに脳裏に「焼き付いているだけ」ということになる。必要なのは「もう大丈夫なのだ、今は関係ないのだ」と「説得」することではなく、「相手をしないこと」だ。

この「評判システム」が一種の強化学習のようなものならば、そうしていればその記憶は「枯れる」。消えはしないかもしれないが、無味乾燥なただ在るだけのデータに成り下がる。


簡単な例えをすると、スマホやパソコンの変換機能をイメージしてもらいたい。
あれには選ばれた回数を記憶する単純な学習機能があり、選ばれた変換候補は上位になっていく。

つまり「よく使うものほど出て来やすい」。

じゃあ「見たくもない」なら、選ばなきゃいい。
大事なのは、頭の中に思い浮かんだというのは選んだのではなく、「変換候補として上がった」程度の段階だということ。まだ間に合う。思い浮かぶのは自動的だから気にする必要はない。

 記憶のせめぎ合いは自動的なプログラムなのだとしても、この点に関してだけは能動的に「対処」する必要があるだろう。対処って言っても無視することなんだが、それを自分の意志で行うこと。自分の意識活動を客観視するセンス、つまりはメタ認知が必要だ。

参照:認知バイアスとは

そして、「今、目の前には、自分を脅かすものはない」という現実を把握すること。
参照:トラウマ克服に使われる行動療法 暴露療法


 どれだけ思い浮かべないように心がけても、どうせ頭の中に勝手に思い浮かぶだろう。脳は無意識的な部分のほうが多く稼働しているから。

連想できそうなネタがあれば高確率で思い出す。思い浮かぶこと自体は脳がまともに機能している証拠だ。だがそれを認識したとして、それ以上の相手はしてはならない。


 繰り返すが「否定」ですらその記憶に「投票した」ことになる。「その記憶は不要だ」と無意識に分からせるためには、一切のフィードバックを送らないことしかない。難易度は高い。この辺りはマインドフルネスについてのノウハウなどが役に立つだろう。
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