ヒューマンエラー・凡ミスについて
投稿日:2017/07/04
ありえないミス、下らないミス。誰にでもあり得るし、自分がそんなミスするわけないじゃないかハハハとか言ってた奴が次の瞬間やらかしてたりする。なぜなのか。
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3種類のヒューマンエラー
ヒューマンエラーは人身事故に繋がりそうな業種、産業や医療系などで特に警戒されていて、論文なんかも結構ある分野だ。
ミステイク、ラプス、スリップ(アクションスリップ)に分類する考え方がある。分かりやすいのでこれで行く。簡単に買い物で例えよう。
ミステイクは判断ミス。「やろうとしたこと自体が間違っていた」タイプのエラー。買おうとした物自体が間違っていた場合。
ラプスはやり忘れ。「やろうとしたことに何らかの抜けがあった」タイプのエラー。買い忘れがあった場合。
スリップはやり損ない。「やろうとしたことと違うことをいつの間にかやっていた」タイプのエラー。買い物行こうと出かけてペットショップで子猫を見て満足して帰ってきたとか。猫なら仕方ない。
認知能力と
スキーマが関係している。解説に必要なので先にそちらの説明を簡単に。
認知能力とは
ここでは見聞きしたものが「何なのか」を知覚し、必要な記憶や情報を頭の中に並べる力と思ってくれて構わない。高度な知的活動である思考、計算などではなく、直感や無意識と呼ばれるレベルで働く認識。
このレベルの認識にバイアス(偏り)があって思い込みや決めつけをしたり間違えたりするのが
認知バイアス。
スキーマとは
頭の中のプログラム。あらゆる物事の手順、対応、解決法。慣れてきた物事の場合、一々手順を思いついて行っているわけではなく、身についたスキーマの実行をしている。
特徴としては「変数」を持つということ。まぁ簡単に言えば、スキーマを台本とすると大雑把なあらすじはあるのだが、細かいところはアドリブ任せだということ。「そこはアドリブで」って部分が変数。
このゆらぎがあるから、家の鍵と職場の鍵を同じ「カギを掛けるor閉める」という同じスキーマで処理できる。アドリブと言っても限度がある。鍵穴に砂いれても意味がない。アドリブというよりは「その場を見りゃ判るだろ」というのが近いか。
逆を言えば、元からスキーマは「状況をちゃんと認識してないと間違える」。ここ大事。
これはほとんど体に染み付いた記憶=体験知である。それが「物の考え方」でも脳という臓器の使い方という意味では体験知。
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思考の後で体を動かしているわけではない可能性
これも言っておかないと。脳が信号を発する→思考がそれを把握する=何か思ったり考えたりする→体が動く、だと大体は思われているのだが、そうではないらしい。
この決定があっぱらぱーだった場合に待ったを掛けるのが理性の役目だと思われる。ミスをしたことがない人がいたとしても、ミスをしそうになったことくらいはあるだろう。つまり無意識の決定は結構間違えると思われる。
これまた認知バイアスのあたりで書いたと思ったが、ヒューリスティクス(精度よりも速度優先の決断)の傾向が無意識にはあるのが原因だろう。
前提として「ヒューマンエラー」、要するに知ってるはず、出来るはずなのになぜか間違えたというミスを取り扱う。例えば本人にミスがなくて指示やマニュアルが間違っていた場合などはこれらには該当しない。
ミステイク
「何をしなければいけないのか」の判断が間違っていたケースがミステイクになる。前提や状況判断ができていない状態でできていると思い込んで行動に移したミス。
例えば
確証バイアスにより決めつけ、思い込みで前提を間違えて認識した場合など。その後の行動全てはいくら理知的だったとしてもミステイクとなる。思考の起点の間違い。
「悪口言われてる」「批判されてる」「嫌われてる」とか被害妄想で思い込んで顔真っ赤にして怒鳴り込むとかね。
「行為そのものは間違っていない」のはポイント。つまり本人としては間違いではなく「やろうとしてやっている」。
ただ、状況判断そのものが間違っておりそのスキーマが状況とは噛み合っていない。このせいで「自分は間違ってない」と言い張る輩も多い。
特にネットでは感情を伴って暴発しやすい。ネットで向こうから流れてくるものの殆どは「ダイジェスト」か「特徴的な一瞬を切り抜いたもの」のようなもので、それで「全部」というわけではないことは覚えておいたほうが良いだろう。
まぁ一々言われんでも大抵は経験でわかってることだとは思うが。スマホ買ったばかりの子は注意な。
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ラプス
ラプスは特に何らかの要因での中断、中止、後で良さそうな部分だけすっ飛ばすことによって発生する。パッと見「失念」に近い概念なのだが、よく考えてみるとこれは「中断または停止あるいは未完のスキーマに戻れない」現象だと思われる。
例えば行動のスキーマなら、小さなアクションが組み合わさって成り立っている。
家の鍵を開けようとして「鍵を開けるスキーマ」を採用する場合、
まず手持ちの鍵束から車でも金庫でもなく家の鍵を探し、
鍵穴に挿入し、
ひねり、
カギを引き抜いてポケットにでも入れて、
ドアを開ける。
細分化すればかなり過程は多い。
この例でラプスがありえそうなのは、カギ挿しっぱなしくらいだろうか。確信してドヤ顔で自転車のカギを突っ込んだ場合は後述のアクションスリップに入る。
例えば大量の買い物をして、両手が塞がってる状態だとしよう。荷物をちょっと降ろして鍵を開けて、後でいいやとカギ挿しっぱなしでとりあえず荷物を玄関まで置いて一息つく。
面白いのが玄関までついたら今度は「靴を脱いで家に上がる」というスキーマがそれなりの確率で発動することだ。買い物が食べ物だったら「食料品を冷蔵庫に入れる」というスキーマが発動するかもしれない。
要するに、「場面」が変わると脳と体はそれに合わせたスキーマを実行しようとする。こいつらはさっきの鍵開けスキーマには「戻らない」。戻るためには「意識」が記憶して、待ったをかけなければならない。「まだカギ取ってない」。
さて、判断もまた意識の水面下で行われることがある。後で良いやと後回しにした判断を自覚していなかった場合、このあたりの思考は全て後で思い出せなくなる。
残るのは、玄関のドアに突き刺さったままのカギとぷらぷら揺れてるキーホルダーだけだ。
つまりスキーマは「中断」にかなり弱い。
ツァイガルニク効果という途中でやめると覚えてる心理的現象もあるが、「新しい場面で役割を演じる」ことのほうが優先順位はどうやら上らしい。
この上そのスキーマが「完了した」と思いこんでる場合、ツァイガルニク効果は発動しない可能性も高い。むしろ忘れっぷりから考えるに「終わった」と勘違いしてる可能性は高いだろう。
また、意図的に過程をすっ飛ばしたり後回しにした場合、その特殊な状況に対応するスキーマを大抵の場合持っていない。レアケースとなる。この場合、自分の
ワーキングメモリに頼るしかなくなる。
だがそれらは新たな状況の認識のスキーマのチェックに奪われがちだ。再確認したり後から気付くような機会がない限りそのままかもしれない。
この場合どうすればよかったのか。ものすごく簡単だ。カギ抜いてからドアを開けるべきだった。スキーマを完遂させればよかっただけだ。
だが、今回は上にわざわざ書いたから私達は今それがわかるというだけの話で、実際にはスキーマの文面化や全体像の把握なんて普通はやってない。
日常の些細な行動を全て文章化するなんてめんどくさい事やるくらいならPython勉強してAIでも作るね。全くわからんが。
そんなわけでスキーマの完遂を日々心がけるか、シンプルに「一つ一つ確実に」とか心がけたほうが速いだろう。
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アクションスリップ
アクションスリップはさらに細分化され、反復エラー、目標の切り替え、脱落と転換、混合に分かれる。
簡単に言えば、やろうとしたことと結果が食い違ってるか、やりそこねるタイプのエラー。スキーマそのものが失敗しているケース。
反復エラーは一度やったことを繰り返すこと。歯を磨いた後でもう一度歯を磨くとか。やったことを覚えてないか、思い出せない。
目標の切り替えは途中で脱線して別のスキーマに入れ替わること。台所に水飲みに行って風呂沸かして帰ってくるとか。
脱落、転換はスキーマの順序が抜け落ちる、あるいは飛ばすこと。ラプスに似ている。カップラーメンにかやく入れて、蓋閉めて、お湯入れるの忘れてたとか。カップ焼きそば作る時にお湯入れる前にソース入れちゃうとか。
混合は本来行うべきスキーマが別の似たようなスキーマと置き換わる、あるいは混ざること。ミステイクに似ているが、こちらは前提条件の認識はまともにできているケース。つまり本人が見ても間違っていることをそうと気付かずしてしまうケース。
変数の入れ替わり
スキーマには変数があると先程述べたが、そこに入れるべき要素を間違える形のミスもある。これもアクションスリップに入るだろう。
事故を起こした管制官は、レーダー画面上に表示された「907」および「958」という便番号をずっと目で追っていたにも関わらず、ある瞬間、突然この2つの番号を逆に読み始め、事故が起こるまでの数分間、言い間違いにまったく気づかなかった。Wikipediaより
飛行機が衝突しかけた例。この管制官は疲労状態だったとされている。
この場合、907、958の2つの「変数」が頭の中にあり、スキーマの変数としてどちらに代入するべきかわからなくなり、入れ替わった。
怖いのは言い間違えの自覚がなかったことにある。認知できなかったのは「言い間違えたこと」だ。つまり人間は自分が何言ってるのか何やってるのかわかってない瞬間が確実にある。現役の、それが許されないような職種の人でもだ。
アクションスリップはぶっちゃけて認知症みたいな感じになる。これも偶然ではなく、恐らく認知症同様一時的とは言え「認知能力」が低下したため自分が何をやっているのか分かっていないのだと思われる。
だから職場ではなく、リラックスして、油断していて、尚且つ日常的な反復行為が多い休日の自宅で発生することが多いだろう。逆に反復エラー以外は職場でもしもやらかしたら明らかにミスになる。
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犯人探しでもしようか。
慣れ
何度か出てきたが、慣れてるほどアクションスリップを始めとしたヒューマンエラーは発生しやすい。これは恐らく慣れによって注意力がそれほど働かなくなってくることが原因だろう。
脳の電気信号→身体と思考それぞれの反応という説を採用するなら、アクションスリップは「検閲」が間に合わずに体が動いた、ということになる。
認知が間に合っていないケースがある。恐らく脳は普段からして間違えている。多分間違えまくってる。スキーマと状況がマッチしてるのが「正解」だとすれば、それらがミスマッチになるのが「不正解」だ。脳は対象を確認した瞬間にスキーマをアウトプット=実行させようとするが、認知が追いついてそれらの軌道修正をする。
これを普段の意識状態だとしたら、認知が追いつかなければ身体が勝手にそれをやるということになる。簡単に言えば、口や身体が勝手に動く。動こうとする。普段は体は待機状態か現状維持でその間に意識が脳波を「翻訳」し、その後チェックするのを待つ。やり慣れたものや「反射」に属する行動の場合、これらが先走る可能性が出てくる。
先走るというよりは「検閲」する側である意識が手を抜いているようにみえる。スキーマ自体は洗練された完璧なものだったとしても、場面だけが致命的に間違っていたり(ミステイク)、細部がいい加減になってきたり(スリップ)、忘れたり(ラプス)。
疲労により認知・判断能力が低下するとこれらの状態になりやすい。自宅の玄関をノックしようとした自分に気づいた時には流石にヤバイと思ったね。
元から注意力は続かない
個人差はあるが、単純作業を注意深く行うのはせいぜいが30分程度が限界だそうだ。
Mackworth(1950)は、被験者に直径約 25cm の白い盤面上を毎秒 100 分の 1 周で回る長さ 15cm の黒い指針 が 2 倍の速さで進むのを発見したら反応キーで応答させる実験から、注意の持続時間を検討した。
その結果、 被験者の発見率は実験開始後 30 分以降には著しく減少することが明らかとなった。
この30分のラインはどうしようもないもののようだ。罰則も、注意も、激励も、効果がなかったそうな。本気で「人間の限界」なのだろう。
面白いことに自発性があること、複雑な作業であることなどの条件の場合、注意時間は伸びるそうだ。逆を言えば「作業が単純であればあるほど発生しやすいミス」というものはありえる。
逆になけなしの注意力を損なう要素として「別のことに気を取られる」とかがある。喧嘩した相手の顔が浮かぶだとかね。この際頭は記憶や想像、別の目立つ何かに向いている。作業に向いてない。スキーマのお陰で手は動いてはいるが、チェック役がそれじゃあエラーは時間の問題になってしまう。
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「先読み」
人間は一瞬先を先読みしている。脳がそうなっている。また、よくわからないものは勝手に「補足・修正」する。これが現実と区別がつかないリアリティで行われる。
「錯視(さくし)」というキーワードで画像検索してみるといい。動いて見えたり、同じ長さなのに違って見えたり。これらは全て脳の勝手な翻訳を利用したものだ。後はイヤホンがジャックからハズレてるのに確かに音がしてた気がした、とか。携帯ゲームの起動音とか。
状況を理解する前の人間は現状把握のための「仮説」を複数脳裏に描き、「証拠」を見つけた瞬間にそれに見合った仮説を現実として採用するとの説がある。
堤防やダムをイメージしてもらいたい。溜まってるのは水じゃなくて今後の対応プラン、つまりスキーマだ。それが複数ある。どれが開放されるべきかの指示待ちだ。
はい、間違った堤防が開放されたらとんでもないね。覆水盆に返らず。しかもダムレベルの水量だ。実際勘違いした人間の暴走はこういったイメージに近い。あのスタートダッシュっぷりが。
証拠だと思ったものが的外れだったか、証拠を見つける前に仮説を現実として採用した場合、全部ミステイクになる。
まとめ
つまりヒューマンエラーとは、無意識や体は何をすればいいか知ってる(つもり)であり、尚且つ頭は状況把握or行動選択がまだできていない状態で体が先走る、と言える。長いな。まぁ簡単に言えば「頭が体に追いついてない」。
ミスをしたその瞬間がおかしかったのではなく、無意識は多分普段からよく間違える。人間はそれをチェックしてヤバイものは却下・修正しているわけだが、疲労が主な原因となるがチェックを「すり抜けて」不適切なスキーマが行動に出てしまう事がある。ベタだが、適度な休憩はクオリティのために必要なものだろう。
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